福岡高等裁判所 昭和47年(ネ)141号 判決 1980年4月15日
控訴人(被申請人) 三菱重工業株式会社
被控訴人(申請人) 亀屋和明 外二名
主文
原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
各被控訴人の本件仮処分申請を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人三名代理人(以下被控訴代理人という)は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。
第二各被控訴人の申請の理由
一 各被控訴人と控訴人との労働契約関係の発生
被控訴人らの経歴・地位ならびに処分の存在
各被控訴人は控訴会社に雇用されその従業員として、被控訴人亀屋和明は昭和三四年四月六日、同山口利之助は昭和三六年四月一日、いずれも控訴会社長崎造船所に採用され、技術学校三年を経て同社長崎造船所第一機械工場に機械工として、同山口明彦は昭和三二年四月四日右造船所に採用され、技術学校三年を経て同造船所機装工場に、機装工として、それぞれ勤務してきた者である。各被控訴人とも同造船所従業員を中心として組織する全日本造船機械労働組合三菱重工支部長崎分会に所属してきた組合員である。
二 控訴人の各被控訴人に対する懲戒解雇
各被控訴人は、昭和四四年一〇月二一日国際反戦デー当日東京都内で開かれた反戦集会に参加するため、同月一八日それぞれ同月二〇日から二二日までの間被控訴人三名中明彦は用事・その余の二名は、いずれも旅行の理由で事故欠勤する旨の欠勤届を各所属上長にすなわち被控訴人亀屋は片山作業長に、被控訴人利之助は中野作業長に、被控訴人明彦は荒木作業長に提出して同集会に参加したところ、被控訴人ら三名とも警察官に逮捕され引き続き勾留されることになつたため、同月二三日以降の出勤が不可能となり、同僚の荒川澄を通じて同日付で各所属上長にその旨欠勤届を提出し、その後も弁護人を通じて同趣旨の欠勤届を提出したが、被控訴人山口明彦、同山口利之助は同年一一月一二日に不起訴処分に附されて釈放されたので同月一五日から後記のように控訴会社が就業を禁止するまでの間就労し、被控訴人亀屋和明は同年一二月二四日保釈により釈放されたので同月二八日以降就労が可能となつた。
各被控訴人は、昭和四四年一二月二八日控訴会社長崎造船所長末永総一郎より、前記東京都内における反戦集会に参加し、かつ逮捕・勾留されたことが控訴会社長崎造船所就業規則(以下単に就業規則という)六四条一項一三号の「刑罰法規に定める違法な行為をしたとき」に、およびこれにより被控訴人亀屋和明は同年一〇月二〇日から同年一二月二七日まで五八日間にわたり、同山口利之助、同山口明彦はいずれも同年一〇月二〇日から翌月一四日まで二二日間にわたり、各欠勤したことが同条項一号の「正当な理由なしに無断欠勤連続一四日以上に及んだとき」に、それぞれ該当するとの理由で、懲戒解雇の意思表示を受けた。
また被控訴人山口利之助、同山口明彦は同年一一月一五日から出勤していたが、前記国際反戦デー参加の理由をもつて同日から同年一二月一五日までの間の時間外労働を禁止され、かつ翌一二月一六日から右解雇通告を受けるまでの間の就業を禁止された。
三 処分の違法性
(一) 就業規則六四条一項一号の趣旨および適用
1 使用者と労働者の関係は、労働契約に基づく労務の提供とこれに対する賃金の給付を中心とした債権・債務の関係であつて、欠勤とは右債権・債務関係の一時中断であり、法律的には労働者側の債務不履行を意味するものである。従つて、これに対しては、賃金の不支給・成績査定への悪影響等の不利益、あるいは極端な場合労働基準法に基く予告解雇(労働契約の解除)などの債務不履行にともなう効果がもたらされることはあつても、欠勤自体が直接懲戒解雇の原因となるものでないことは右欠勤の本質から当然窺われるところである。ただ、企業は多数の労働者を生産過程に有効適切に配置し、使用者の予定した定量労働によつて日常の生産活動を維持し、遂行することに重大な利害関係を有することから、欠勤が、使用者において事前に予測されず事後に遅滞なく知らされないため欠勤によつて不足した労働力につき速やかに補充・変更等の対策を講ずることができず、ひいて企業の日常の生産機能を維持することができないような方法でなされる場合(この典型が無届欠勤)、始めて懲戒問題が発生しうるのである。そうした事業上の正当な理由なしに控訴人が主張するように、欠勤について労働者個々の欠勤理由に立ち入つて債務不履行上の不利益のほかに制裁・懲戒の対象とすることは不当であり、従つて、懲戒事由を定めた本号にいう「無断欠勤」とは「無届欠勤」のみを意味すると解すべきである。もつとも本号に該当する事実があつたとしても、それだけで直ちに懲戒解雇が適法となるのではなく、それが社会通念上相当であること、すなわちその無断欠勤が社会通念上解雇されてもやむを得ない程度に悪質かつ重大である場合にはじめて適法となると解すべきであつて、このことは本項各号につき共通である。
2 本号を右のように解釈するならば、被控訴人らは前記二のとおりそれぞれ各所属上長に欠勤届を提出しており、本号に該当する事実は存しない。
控訴人は、被控訴人らの昭和四四年一〇月一八日付欠勤届につき、欠勤の理由が虚偽であるから無効であると主張しているが、控訴人が主張するように労働者の欠勤が会社の業務に支障をきたすのは、欠勤の理由ではなく欠勤それ自体であつて、前記1のとおり使用者は欠勤についてその具体的理由に立入つて懲戒の対象とすることはできないのであるから、右主張は理由がない。仮に控訴人の主張が正当であるとしても、被控訴人亀屋和明、同山口利之助については「旅行」、同山口明彦については「用事」という欠勤理由を表示しており、別にそれらが虚偽とは云えないばかりか、そもそも欠勤理由なるものは原則としてプライバシーに属することがらであるので、労働者は積極的にこれを第三者に公開ないし通知する義務を負わず、この程度の漠然とした欠勤理由の表示で十分である。
また、控訴人は被控訴人らが逮捕・勾留された段階での昭和四四年一〇月二三日およびその後の弁護人を通じての欠勤届も無効である旨主張するが、事故欠勤に関する就業規則二一条三項但書の趣旨からして、既に自己の意志によらずに欠勤を余儀なくされた被控訴人らが、その欠勤理由として「国際反戦デーの闘いで逮捕された」程度の理由を示せば十分であり、もし控訴人においてさらに詳しい事情を知りたければ欠勤届を提出した同行者からその経過を聴取し得たはずである。さらに右欠勤届に所在地が明らかでないというが、欠勤届作成の段階でも逮捕された段階でも、被控訴人らにも自身の所在地は不明であつたし、欠勤期間に至つては逮捕・勾留されている被控訴人らがこれを明示することは不可能であつた。
3 控訴人は本号の解釈につき、就業規則二一条三項前段に事故欠勤の際は所属上長の許可(事実は認可)を得なければならないと規定されていること、従業員就業規則細部取扱の八項に無届欠勤および無許可欠勤は無断欠勤とするという文言が存することを根拠に、本号の無断欠勤には無許可欠勤も含まれ、被控訴人らの前記欠勤届については所属上長が許可を与えていないので被控訴人らの欠勤は本号の無断欠勤に該当すると主張する。しかし、この主張が前記1のとおり不当であることはもちろん、控訴会社長崎造船所においては、従前から一貫して事故欠勤については届出方式がとられてきているのが事実である。また、前記従業員就業規則細部取扱なるものはその立案・実施に至るまで被控訴人らの所属する全日本造船機械労働組合三菱支部も全く関与しておらず、同長崎分会の従業員にも全く周知徹底されていないのでこのような規定を有効とみなすことはできない。
ちなみに、労働者の生活に重大な影響をもたらす懲戒条項はすべて労使間の労働協約(二七、二八条)として締結されたものがそのまま就業規則(六三、六四条)に転記されたものであつて、無断欠勤を含むその解釈は労使間の協議事項であり(労働協約七四条)、今回の如く今日まで長年の慣行と組合の反対をふみにじつて控訴人のみで一方的に解釈・実施できるものではない。控訴人は無許可欠勤も無断欠勤に含まれると解すべき理由について縷々主張するが、要するに労務の給付対報酬を基軸とした使用者と労働者の債権・債務関係では、賃金の全部又は一部の支給を受ける休暇すなわち有給休暇を求める場合に承認願およびこれに対する許可が必要であるとすることは当然であるが、賃金の支給を受けないことを覚悟して休む欠勤については届出だけで十分であり、これに対して許可・不許可の概念を介入させる余地はない。もつとも届出さえすれば欠勤に制限がないというのではなく、長期にわたれば就業規則六五条三項による予告解雇か、場合によつては同六四条一項二号の「出勤常ならず」による懲戒解雇かによつて解雇されるのは別論である。
4 仮に無許可欠勤が本号の無断欠勤に該当するとしても、被控訴人らの欠勤は「連続一四日以上」にはおよんでいない。けだし、控訴人が被控訴人らの欠勤届を「不許可」と決定したのは昭和四四年一二月一五日であり、労働者の事故欠勤理由如何によつて使用者に許可・不許可の権限があるとしてもその効力は将来にのみ及ぶと解すべきであるので(そのように解さないと欠勤届を出した労働者はどうしたらよいか判断できない)、被控訴人山口明彦、同利之助については全く無断欠勤はなく、被控訴人亀屋和明については昭和四四年一二月二八日以降は就労が可能であつたにもかかわらず控訴人によつて就業を禁止されたので、右不許可決定の日から一二月二七日までの間休日を差引いた一二日間しか無断欠勤をしていない。
(二) 就業規則六四条一項一三号の趣旨および適用
1 本号の趣旨は、刑事法上の罪を犯したことそれ自体が問題なのではなく、それが具体的に控訴会社の利益または職場秩序を侵害した場合にはじめて懲戒解雇が許されるということにある。けだし、労働契約によつて結びついている使用者と労働者の関係は、場所的には事業場内、時間的には就業時間内において展開されるのであつて、即時解雇に値するとされる重大な職務違反または背信行為もこのような意味で企業内の行為に限られるのが原則であり、企業外の行為あるいは私生活上の行為が即時解雇の事由とされるのは、その非行によつて会社に損害を与え、あるいは会社の信用を傷つけ、その他会社と労働者との間の信頼関係を損う等により、雇用関係を即時に消滅させることが已むを得ないと考えられるような場合に限定されるべきだからである。
2 被控訴人ら三名は、本号に該当するような違法な行為をした事実はない。被控訴人らは、前記二のとおり一〇月二一日の国際反戦デーの集会に参加するため同日午後四時四〇分頃東京都内地下鉄高田馬場駅改札口から地上に出たところを、警備の警察官に逮捕されたのであつて、その間警察官に暴力を振つたこともなく、ましてや火炎ビンを所持していたこともこれを投てきした事実もない。仮に被控訴人らの集団と前後した他の集団の中に火炎ビンを投てきした者があつたとしても、被控訴人らはこれと関係なく、懲戒は個人の行為を対象とし「個人責任の原則」が貫かれるべきであつて、連座制の適用はもとより許されない。
3 控訴人は、被控訴人らの行為が本号に該当するか否かの判定にあたつて、被控訴人山口利之助、同山口明彦については不起訴の決定がなされ、被控訴人亀屋和明については未だ第一回公判期日も開かれない段階で、捜査機関から入手した一方的な資料に基づき、組合並びに被控訴人らの事情説明も十分聞かずに事実関係を認定し該当する旨の判定を下しており、これは懲戒手続における正義の原則を著しく欠いたものである。有罪判決確定以前に本号の事実を認定するには、本人の自白その他により犯罪事実の明白な立証がなされることを要するものというべきところ、被控訴人らはいずれも犯罪の成立を争つているのであるから、安易に本号の懲戒事由を認定すべきではない。仮に各被控訴人の行為が何らかの犯罪を構成するとしても、事業場外でのこれらの行為が具体的・現実的に控訴人に損害を与え、職場規律を乱したとの事実はない。
(三) その他の懲戒解雇事由について
被控訴人らの本件懲戒解雇に際して、労働協約に基づく懲戒委員会で審議された内容および解雇通告に示された理由は前記(一)、(二)の二点であつて、その他の解雇事由はその後追加されたものであるから、本件解雇の効力を判断する場合本来無視すべきものであるが、以下に一応反論しておく。
1 就業規則六四条一項五号
被控訴人らの本件逮捕・勾留に基づく欠勤が生産秩序を乱した事実はない。被控訴人山口明彦・同山口利之助の昭和四四年一二月二日および同月一九日の長崎造船所前における長崎地区反戦主催の集会参加および被控訴人らの就労要求の行為は被控訴人らの正当な要求を所属上長に主張したまでであつて、その集会および上長との面談は穏やかに行われ、何ら職場秩序を乱したような事実はない。昭和四六年一月六日以降の被控訴人らの行為は解雇通告後であるから本件懲戒解雇の理由とはならない。
2 同六号について
本号は控訴会社の従業員に対する暴行・脅迫と業務妨害について定めたものであつて、企業外におけるこの種の行為については同項一三号をもつて論ずべきである。従つて、被控訴人らの反戦集会参加が他人に対する暴行・脅迫に該当するとしても本号の問題とならないばかりでなく、もともと前記一二月二日、一九日の集会は適法な大衆示威行動であつて脅迫にはあたらず、かつ控訴人の業務を妨害したこともない。
3 同八号について
本号の行為は、道徳的・社会的・法律的にみて不名誉な一切の行為を含むものではなく、その行為が客観的にみて企業の秩序乃至規律の維持又は企業の向上と相容れない程度のもので、これによつて会社の体面即ち企業者としての社会的地位・信用・名誉等が著しく毀損され、企業者にとつてもはや当該労働者との間の雇用関係の継続を期待し得ない場合を意味する。一介の工員にすぎない被控訴人らの本件反戦集会参加の行為が、一万数千名の従業員をかかえる長崎造船所あるいは八万二千名の従業員をかかえる三菱重工業株式会社の信用を失墜せしめた事実は全くない。
4 同一五号について
懲戒処分についても罪刑法定主義の原則が貫かれるべきであり、本号のような包括条項は特に慎重かつ厳密に解釈されるべきである。従つて、同一三号に該当しないものを本号を適用して懲戒事由に該当すると解するのは不当に懲戒事由を拡張するものである。
(四) 時間外労働禁止および就業禁止について
控訴会社は不起訴釈放された被控訴人山口明彦・同山口利之助に対し、昭和四四年一一月一五日以降のすべての時間外労働を禁止したが、一般官公庁と異り時間外労働手当が生活賃金の重要な部分を構成している造船産業にあつては、右処分は深刻な生活危機をもたらし、労働基準法三条および労働協約に違反する。また一二月一六日以降の就業禁止は就業規則六四条二項を根拠としているが、懲戒事由に該当したか否かを審議する懲戒委員会が開かれる前から一方的に就業を禁止したのは同項の解釈を誤つたものであり、また本項は労働協約二八条二項を転記したものであり、その解釈は労使双方の中央経営協議会の附議事項(労働協約七四条二号)であるので、控訴会社が一方的に解釈実施し得るものではなく、右処分は理由がない。
四 1 各被控訴人に対する控訴会社の本件解雇の意思表示が昭和四四年一二月二八日なされたことは、前記二のとおりであり、各被控訴人は同日以前から控訴会社長崎造船所従業員を中心として組織された全日本造船機械労働組合三菱重工支部長崎分会に所属してきた組合員である。
2 本件解雇は各被控訴人が労働組合の組合員であることの故をもつてその労働者を解雇したものであるから無効である。
五 保全の必要性
各被控訴人は、控訴会社から受ける賃金のみによつて生計を維持してきたもので、解雇の意思表示を受けた昭和四四年一二月二八日以降の賃金の支払いを受けず、被解雇者として収入の途を絶たれるにおいては他に生活の資を得ることは困難であつて、各被控訴人は本件解雇無効を理由に控訴人に対して雇用関係存在の確認と同日以降の賃金の支払いを求める訴を提起しているが、右本案判決の確定まで待つていてはその生活の困窮によつて著しい損害を蒙ることは極めて明らかである。なお、各被控訴人が本件解雇後他に就労しているにしても、これによる収入は不安定なものであり、本件訴訟維持の費用捻出のため必要なものであり、右費用は多額であるから、仮処分による賃金相当額の支給は各被控訴人の生活を困窮状態に追いつめないために必要である。
第三申請の理由に対する認否及び控訴人の主張
一 申請の理由第一、二項の事実は認める。
二 同第三項はすべて争う。同第四項のうち1の事実は認め、2の事実は争う。
(一) 就業規則六四条一項一号について
1 就業規則六三条一号、本号および同細部取扱八項の無断欠勤には、無届欠勤・病気を理由とする連続七日以上にわたる欠勤で医師の診断書の提出のない場合の七日以降の欠勤のほかに、事故欠勤許可の条件を具備していない欠勤即ち無許可欠勤もこれに該当することが明らかである。けだし、近代企業は協業と分業によつて生産を行つており、ことに控訴会社のような大企業において協業・分業関係が複雑に入り組み、さらに厳格に納期が決められている受注生産方式をとるところでは、労働日に社員が欠勤することは生産量の低下、納期遅延をもたらし、さらには工程の混乱を伴つて生産上非常な支障を来たすことになる。反面、従業員の個人的な事情もあつて、会社は従業員が年次有給休暇や無事故扱いで休む場合は殆んどこれを認め、さらには病気その他の不測の場合を慮つて私傷病欠勤、事故欠勤なるものを認め、もつて従業員の市民生活、社会生活を保障するため、右生産上の支障を敢えて受忍しているのである。しかしながら会社は事故欠勤につき正当な理由のない場合にまで生産上の支障を受忍する必要はないし、そもそもそのような場合、労働者は労働契約に従つて労務を提供するという誠実義務を破棄し、勤労意欲のないことを自ら示し、他の精励している社員に多大の迷惑を及ぼし、職場の秩序を乱すものである。従つて、欠勤については労使協議の結果許可制とし、無許可欠勤は職場秩序を紊乱するということで無断欠勤とし、懲戒の対象とすることで意見が一致し、労働協約、就業規則にその旨規定したものである。具体的には就業規則二一条三項に基づき、欠勤の具体的理由および期間を明示した所定の欠勤願を所属上長に提出し、所属上長の許可も前記許可基準に基づいて厳正に判断して行われるのである。
2 これを本件についてみるに、被控訴人らは昭和四四年一〇月一八日付同月二〇日から二二日までの欠勤届に「旅行」(被控訴人亀屋・同山口利之助)とか、「用事」(被控訴人山口明彦)という理由を記載して所属上長(被控訴人亀屋については片山作業長・同山口利之助については中野作業長、同山口明彦については荒木作業長)から許可されたが、被控訴人らは後記(二)で述べるような秩序破壊暴力行為を企図し実行した反戦集団の違法な行動に参加する目的をもつて上京したのであり、その理由は虚偽であり、所属上長をあざむいたものであつて、この三日間の欠勤願は無効である。
さらに、一〇月二三日以降の被控訴人らの欠勤についても荒川澄が被控訴人らの同日付欠勤届をそれぞれ前記各所属作業長に提出したが、これは本人の自筆にしても所定のフオームによらず「不当な権力の弾圧により出勤することができないので一〇月二三日より出勤できるようになるまで欠勤する(被控訴人亀屋、同山口利之助)」とか、「右同一の理由により出勤できないので、一〇月二三日より釈放されるまで欠勤する(被控訴人山口明彦)」とか、欠勤願の形式をととのえておらず、欠勤理由が具体的でなく、欠勤期間も明示されていないので、これらの欠勤届は無効であつて、その後弁護人を通じて届出られた欠勤届もこれと同様である。被控訴人らの連続欠勤の直接の原因は被控訴人らが逮捕・勾留されたからであるが、これは各被控訴人が後記(二)で述べるような違法な集団行動に予め逮捕されることを予期して参加したためであつて、長期欠勤に何ら正当な理由がないばかりか、各被控訴人のこのような行為は、各被控訴人が逮捕覚悟の段階で既に就労の意思を放棄し、労働契約を誠実に履行する意思をもつていなかつたことを裏書するものというべきである。
(二) 就業規則六四条一項一三号について
1 本号の趣旨は、従業員の犯罪行為・非行は、それが業務上かあるいは私生活の範囲内で行われたかを問わず、一般の社員および通常の社会人の客観評価からして、経営秩序ひいては企業運営に悪影響を及ぼし、または及ぼすおそれがあるという労使双方同一の認識の下に設けられたものであり、従業員は労働契約に基づき、私生活上においてもかかる行為を慎しむべき誠実義務があるのである。従つて本号は、既に述べたとおり経営秩序維持という観点から判断されるものであり、所謂警察沙汰となると否とに拘らず、また起訴・不起訴に拘らず、従つて確定判決前においても会社としても主体的能力の範囲内で事実の調査を行い、犯罪事実が確認され、その行為自体が経営秩序の維持と相容れない内容をもつている場合には本号の適用がある。
2 各被控訴人は、現体制の破壊を目ざす過激な政治集団である反戦青年委員会に属する者で、一〇月二一日の東京都内における国際反戦デーの集会に参加するに際し、地下鉄高田馬場駅で下車し、構内で被控訴人ら反戦集団は隊列を整え集札口を一気に駆けぬけて階段を上つて出口から道路に出るや、同行の荒川澄またはその近くにいた集団の中から、折からデモ規制のため出勤していた機動隊員目がけて火炎ビン二・三本が投げられて爆発し、これをきつかけに機動隊が各被控訴人の集団の違法行為者を逮捕したのである。昭和四四年一〇月三一日被控訴人亀屋は、兇器準備集合罪、被控訴人山口利之助は、公務執行妨害、傷害、兇器準備集合罪、被控訴人山口明彦は、公務執行妨害、兇器準備集合罪の各現行犯としてそれぞれ逮捕され、被控訴人亀屋は右被疑事実につき勾留起訴されて昭和四九年七月五日東京地方裁判所において有罪判決を受けたが、被控訴人山口利之助、同山口明彦は起訴猶予となつた。右逮捕当時被控訴人亀屋は火炎ビン二本を所持し、ヘルメツト、コルセツト、すね当てで武装し、被控訴人山口利之助、同山口明彦はヘルメツト、タオル、軍手を身につけて火炎ビン投てきの準備をしており、各被控訴人は機動隊粉砕の共同意思をもつて行動をともにし、他の者と暴力行動を共同実行した。各被控訴人のこれらの行為は兇器準備集合罪並びに暴力行為等処罰に関する法律違反の犯罪に該当し、本号の刑罰法規牴触行為に該当する。
(三) 就業規則六四条一項五号について
各被控訴人が一〇月二一日に東京において犯罪行為を犯して逮捕されたことは、その結果として長期にわたる欠勤により生産秩序を乱し、その行為は秩序を全く否定するのみならず積極的にこれを破壊しようとするものであり、その暴力的性格と相まつて一般従業員に精神的動揺を与えた。
また、同年一二月二日午後五時三〇分頃から控訴会社長崎造船所に隣接する飽の浦公園で長崎県反戦青年委員会(以下「長崎反戦」という)主催による「亀屋、藤原奪還決起集会」が開かれ、被控訴人山口利之助、同山口明彦も長崎反戦のメンバーとして右集会に参加し、次に同年一二月一九日長崎反戦が前記飽の浦公園で開催した「処分撤回抗議集会」に右被控訴人両名も参加したが、右両集会において被控訴人山口利之助、同山口明彦は長崎造船所正門前で職場内に突入する気勢を示し、また門前に集団をなして従業員の通行を妨げるとともに保安業務を混乱させた。以上の行為は一般社員に嫌悪と不安、動揺を与え、職場秩序を紊乱したのであり、本号に該当する。
さらに、その後被控訴人らは、控訴会社が不祥事件発生を慮つて就業を禁止したのに対し、所属上長に就業を強要し、その後も守警の制止を振切つて門を突破して事業場内に強行入場し、控訴会社を誹謗・中傷したので、かかる行為もまた本号前段に該当する。
(四) 就業規則六四条一項六号について
1 就業規則は従業員に対する日常行為の規範としての意味を有しているので懲戒条項のたて方としては、従業員として不適当と認められる犯罪行為はすべて列挙されるべきであるが、便宜一三号に包括的な規定をおき、従業員が犯しがちな暴行・脅迫・業務妨害等について本号に列挙したものである。従つて、本号は一三号と内容的には重複し、その適用にあたつては一三号と同様所謂警察沙汰になると否とに拘らず、また起訴・不起訴にかかわらず、判決確定前においても会社として主体的能力の及ぶ範囲内で事実の調査を行い、犯罪事実が確認されれば適用し得るのである。またその適用範囲は事業所内の行為に限定されず、会社外および業務外の従業員の行為についても適用されるのは一三号と同様であり、他人とは当社従業員に限定されない。
2 各被控訴人の一〇月二一日の東京における前記行為は、公務執行妨害の犯罪を構成し、一二月二日、一二月一九日の被控訴人山口利之助、同山口明彦の長崎造船所正門付近における行為は、会社に対する脅迫であるとともに会社業務を妨害するので、いずれも本号に該当する。
(五) 同第八号について
1 本号は会社の事業に関する虚偽の報道・宣伝・告知をなしまた信用を毀損する行為を含み、いずれも必ずしも毀損の結果の発生を要件とせず、そのおそれのある行為を行つた場合も含めて適用される。また、会社の信用毀損、名誉毀損を直接の目的とせず、本人の犯罪行為・非行等に起因して間接的に会社の信用を毀損し、名誉を毀損するおそれのある場合にも適用されるのである。
2 各被控訴人の一〇月二一日の東京における行為は、社会秩序を危殆に瀕せしめる破廉恥な行為であり、世論から激しい非難を浴びており、既に株主から抗議が来たり、商談の話題となり、学校から問い合せがある等の事実があることは、特に控訴会社の防衛産業としての性格を考えるとき、会社の信用を失墜させ、今後の取引関係に悪影響を与え、求人業務にも支障を来たす行為である。
また、一二月二日、一二月一九日の被控訴人山口利之助、同山口明彦らの集団行動および騒乱行動は、長崎市民に対して徒らに迷惑を及ぼすのみならず、市民に向つて会社を誹謗・中傷する行為であり、以上の行為は正に本号に該当する。
(六) 同一五号について
1 本号は懲戒解雇条項の各号に正確には該当しない場合であつても、それらに準ずる程度の特に不都合な行為に対して適用される。これを一三号に関していえば、刑罰法規に定める構成要件に該当するとはいえないが、一般良識人の観念上これに該当する行為と殆んど変らないか又はそれに匹敵するような違法な行為は本号に該当する。
2 各被控訴人の一〇月二一日の東京における行動は前記(二)のとおり刑罰法規に該当する行為であるが、仮に被控訴人らについて控訴会社が認定した事実が刑罰法規の構成要件に正確には該当しないとしても、刑罰法規牴触行為に準ずる程度の不都合な行為であつて、本号に該当する。
(七) 被控訴人山口利之助、同山口明彦に対する欠勤事情の聴取及び各被控訴人の本件解雇後の行動
1 控訴人は、被控訴人山口利之助、同山口明彦が釈放され、昭和四四年一一月一五日出勤するのを待つて右両名から事情を聴取した。
2 各被控訴人を含む中国、四国、九州地区から動員された約三〇〇名に及ぶ反戦青年委員会、反日共系学生による「解雇粉砕二・一一抗議集会」なる集団行動は昭和四五年二月一一日控訴会社長崎造船所飽の浦正門前で社員の出勤時をねらつて実行された。
(八) 各被控訴人の処分前歴
被控訴人亀屋は、昭和四一年譴責、同四二年減給五〇パーセント、同四三年減給二〇パーセントの各処分を受け、被控訴人山口明彦は、昭和四四年譴責処分を受けたことがある。
第四控訴人の反対主張に対する被控訴人らの認否
前記第三の二、(一)ないし(七)の反対主張の事実中被控訴人らが控訴人主張の欠勤届にその主張のような理由を記載して控訴人主張の各所属作業長に提出したこと、昭和四四年一〇月二三日荒川澄が控訴人主張どおりの内容を記載した被控訴人ら三名の欠勤届を控訴人主張どおりの各所属作業長に提出したこと、被控訴人らが昭和四四年一〇月二一日逮捕され、被控訴人亀屋が兇器準備集合罪で勾留起訴されたこと及び同山口利之助、同山口明彦が起訴猶予となつたこと、昭和四四年一二月二日、同年一二月一九日、昭和四五年二月一一日に控訴人主張どおりの各集会が開かれたこと、控訴人が昭和四四年一一月一五日被控訴人山口利之助、同山口明彦から欠勤事情を聴取したこと、被控訴人亀屋、同山口明彦が本件以前に控訴人主張のような各処分を受けたこと、以上の事実は認めるがその余は争う。
第五疎明<省略>
理由
一 労働契約の締結
各被控訴人が控訴会社に雇用され、被控訴人亀屋和明は昭和三四年四月六日、同山口利之助は昭和三六年四月一日いずれも長崎造船所従業員として採用され、技術学校三年の課程を経由し、同造船所第一機械工場に機械工として勤務し、被控訴人山口明彦は昭和三二年四月四日同造船所従業員として採用され、技術学校三年の課程を経由し、同造船所第一機械工場に機装工として勤務していることは当事者間に争いがない。
二 懲戒解雇の意思表示の到達など
各被控訴人は、昭和四四年一〇月二一日開催されたその主張の反戦集会に参加すべく、同月一八日それぞれ控訴人主張どおりの理由を記載した事故欠勤届をその主張の各作業長に提出して同集会に参加し、当日いずれも逮捕、勾留され、被控訴人山口明彦、同山口利之助は起訴猶予となつて同年一一月一二日釈放されたが、被控訴人亀屋は兇器準備集合罪で起訴され、同年一二月二四日保釈されたこと、各被控訴人は、右逮捕、勾留により同年一〇月二三日以降の出勤が不可能となつたので同僚の荒川澄が被控訴人主張のような内容を記載した被控訴人ら三名の欠勤届を前叙各所属作業長に提出し、その後も被控訴人らからその弁護人を通じて同趣旨の欠勤届が提出されたこと及び控訴会社が同年一二月二八日各被控訴人に対し、各被控訴人主張の理由による懲戒解雇の意思表示をなし、各被控訴人に到達したこと、また、被控訴人山口利之助、同山口明彦が昭和四四年一一月一五日から控訴会社に出勤したが前記国際反戦デー参加の理由をもつて同日から同年一二月一五日までの間時間外労働を禁止され、かつ翌一二月一六日から前記解雇の意思表示を受けるまでの間の就業を禁止されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。ところで、第二一条第三項「許可」とある部分の成立は原審証人加藤光一の供述によつて認めその余の部分の成立につき争いのない疎乙第一号証の一に弁論の全趣旨をあわせると控訴会社と期間の定めのない労働契約を締結し長崎造船所に在籍する者の就業につき昭和三九年六月一日以降昭和四二年一〇月にも施行されていた控訴会社長崎造船所従業員就業規則第六四条は、「懲戒」と題し、その第一項に一五の懲戒解雇事由を掲げたうえ、同第二項に「前項の懲戒事由に該当した場合は、懲戒処分が決定するまでの間、就業を禁止することがある。ただし、出勤停止と決定した場合は、就業を禁止した日数を出勤停止日数に算入する。」と規定されていたこと、前叙各就業禁止、出勤停止は、右従業員就業規則六四条二項に基づいてなされたものであることが疎明される。そして、右条項が懲戒のための応急措置を定めたものであることは前顕疎乙第一号証の一に照らして一応認められ、労働基準法、労働協約の規定に反するものでなく、その実施が協約の精神に反するともいえないから、申請の理由三(四)の各被控訴人の各所論は採用し難く、ただ本件懲戒解雇が全部又は一部無効であるときにのみ、無効の限度において検討すれば足るといわなければならない。
本件解雇が無効であるか否かにつき検討しよう。
三 本件解雇の効力
1 本件懲戒解雇は解雇事由、該当行為を欠くか否かを各被控訴人につき控訴会社長崎造船所就業規則(前顕疎乙第一号証の一)第六四条第一項所定の解雇事由該当行為の存否について判断する。前顕疎乙第一号証の一によれば、控訴会社長崎造船所就業規則第六四条第一項は、先ず、「従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は、懲戒解雇に処する。ただし、情状酌量の余地があるときは、出勤停止または減給にとどめることがある。」と規定し、第一ないし第一五号の懲戒事由(一ないし一五号、以下号数のみで略称する。)を掲げていることが疎明される。そこで、控訴会社が各被控訴人に対する懲戒解雇事由に該当するという行為につき各号の適用を検討する。
(一) 一号「正当な理由なしに無断欠勤一四日以上に及んだとき」について
(1) 被控訴人ら三名が昭和四四年一〇月二〇日から同月二二日までの事故欠勤については同月一八日事前に各所属上長に欠勤届を提出して受理されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない疎乙第一八号証の三、同第一九号証の二、同第二〇号証の三、原審証人荒川澄の供述によつて成立を認める疎甲第七号証の一、二、原審証人荒川澄(一部)、同富永勝彦、同曽根治、同野田喜義、原審及び当審証人金田禎孝、同加藤光一、同草野光善(一部)、原審における被控訴人ら(一部)の各供述によれば、被控訴人ら三名は一〇月二三日以降の欠勤については、同月二一日の東京都内での国際反戦デーの集会、デモ参加に際し、当時この種の集会、デモには多数の逮捕者が出ることが予想され、一旦逮捕されると弁護人との接見ができるまでの間欠勤届の手続がとれず、そのようなことで控訴人系列の会社の中にはその間の無届欠勤を理由に従業員を解雇したという事例もみられたため、逮捕に備えてデモの直前に、控訴人主張のような理由を付した二三日以降の欠勤届を作成し、これを同僚の荒川澄に預けておいたこと、その後デモに参加した被控訴人ら三名はいずれも警備の警察官によつて逮捕されて二三日以降も欠勤を余儀なくされたため、右三名の欠勤届を預かつていた荒川澄は二三日各被控訴人の各所属上長に右各欠勤届を提出したこと(右各欠勤届の預託、提出及び被控訴人ら三名の逮捕は当事者間に争いがない)、右各欠勤届は、その欠勤理由が前叙のように逮捕に備え不当な権力の弾圧により出勤できないためとあつて、欠勤期間、連絡先の記載もなかつたことから被控訴人山口明彦の分を受け取つた荒木作業長は、上司に相談の上これを留保扱いとし、同亀屋、同山口利之助の分はこれを受領すれば右理由による欠勤を承認したことになるという理由で所属上長の片山、中野両作業長から受領を拒否されたが、結局草野光善は当日再び右二名の欠勤届を所属上長の許に差し置いて退出したこと、その後被控訴人三名の弁護人となつた弁護士小泉征一郎により前記荒川澄を通じて同年一〇月末頃各被控訴人の欠勤届が重ねて各所属上長に提出され、被控訴人山口明彦の分は機装工場長が結論は検討中との前提で一応受け取り、第一機械工場長によつて受領を拒否された被控訴人亀屋和明、同山口利之助の欠勤届については同年一一月四日所属上長に内容証明郵便で郵送されたこと、控訴会社としては被控訴入らの欠勤届に対し、一〇月二〇日から二二日までの欠勤については欠勤の理由が虚偽であつたこと、二三日以降の欠勤に対しては違法なデモに参加したことによるものとして、いずれも被控訴人山口利之助、同山口明彦が出勤した一一月一五日以後に同人らから事情を聴取した後「不許可」と決定し(右事情聴取の点は当事者間に争いがない)、一二月一五日に右両名に対してその旨通告したこと、以上の事実が一応認められる。原審証人荒川澄、原審及び当審証人草野光善、原審における各被控訴人の各供述中右疎明事実に反する部分は採用することができない。
(2) そこで、就業規則六四条一項一号にいう「無断欠勤」の意味について判断する。控訴会社就業規則が「無断欠勤」を懲戒事由としたのは、控訴会社においてその従業員が首肯すべき理由もなく恣意的に欠勤できるとすれば、勤務計画が樹てられず、全体としての作業能率も低下し、他の従業員に過重又は不時の負担をかけるのみか勤労意欲の減退を招き、ひいては企業内の秩序を紊し企業活動に支障を生ずることとなるので、かかる事態の発生を防止するためであると解すべきである。ところで控訴会社におけるいわゆる事故欠勤の取り扱いについてみるに、前顕疎乙第一号証の一、二一条三項の所属長の「許可」とある部分以外は成立に争いがない疎乙第一号証の二の三、疎乙第二号証、原審証人加藤光一の供述によつて成立を認める疎乙第一号証の二の一、二、同第三号証の二、当審証人加藤光一の供述によつて成立を認める疎乙第五八号証の一ないし三、同第五九号証、原審証人曽根治、同野田喜義、同富永勝彦、原審及び当審証人加藤光一、同金田禎孝の各供述を総合すると、控訴会社は昭和三九年六月一日三菱日本重工業株式会社、三菱造船株式会社、新三菱重工業株式会社の三会社が合併したものであり、合併前の右三会社において労働条件、各規則の取り扱い慣行につき若干の差異があつたのを合併直後から逐次統一することとなり、控訴会社本社の勤労部勤労管理課において、各規則の具体的実施面における解釈・運用に関し既に慣行となつている点や、労使間で合意に達しながら就業規則に定めのない事項を明文化すべく当時控訴会社従業員の過半数を代表していた三菱重工労働組合連合会と協議し、昭和四三年初頃に就業規則の統一作業を完了し、控訴会社は同年八月二六日長崎労働基準監督署長に対し、前叙合併当日から実施されていた従業員就業規則の一部改正を届け出たこと、その間就業規則の解釈・運用に関する取扱慣行も次第に統一され、かつ細部にわたるとともに量も増えたので、控訴会社は昭和四三年一〇月頃就業規則制定の手続に準じ前叙労働組合連合会に提案し、その了承を得て翌四四年初頃従業員就業規則細部取扱(疎乙第三号証の二)に作成し、その一部宛を同組合連合会及び同連合会三菱重工支部にそれぞれ交付したこと、疎乙第一号証の一、同号証の二の三、疎乙第二号証のうち二一条三項の所属長の「認可」とあつた箇所が「許可」と訂正されているのは、疎乙第一号証の二の一添付の従業員就業規則と対比して「許可」が正しく、二一条三項の所属長の「認可」とある部分以外は成立に争いがない疎甲第二二、第二三号証のうち右「認可」とある部分は「許可」の誤りでそれが未訂正のままであるのに過ぎないこと、被控訴人ら三名が本件反戦集会参加のため欠勤した当時控訴会社で施行されていた従業員就業規則(疎乙第一号証の一)二一条一項は「従業員が業務外の傷病または出産のため欠勤しようとする場合は、所定の手続きにより所属上長に届け出なければならない。―後略―」と規定し、同条三項は「事故のため欠勤しようとする場合は、所定の手続きにより所属上長の許可を得なければならない。―後略―」と規定しており、従業員が欠勤しようとする場合に届出だけで足りるのは、業務外傷病または出産のためのみであり、事故欠勤の場合は所属上長の許可を要する定めであつたから、被控訴人ら主張のように事故欠勤の場合も届出で足りるとすれば、同条一項のほかに三項を設ける必要はないのに、あえて三項を設けている以上事故欠勤は許可を条件とするものと解するほかないこと、前叙従業員就業規則細部取扱(疎乙第三号証の二)の8就業規則二一条(欠勤手続)関係(1)には、「無届け欠勤および無許可欠勤は無断欠勤とする。」旨定められていること、控訴会社長崎造船所は、前叙合併前の三菱造船株式会社長崎造船所当時の昭和三〇年八月三一日三菱造船労働組合長崎造船支部の了承を得て当時の就業規則二二条(欠勤手続)にあらたに三項として、「事故の為欠勤しようとする場合は、所定の様式により所属上長の許可を受けなければならない」旨の前叙疎乙第一号証の一の就業規則二一条三項とほぼ同一内容の条項を加える等の改正をし、同年九月二日長崎労働基準監督署長に右改正に伴う変更届をしていること、以上の事実を一応認めることができる。
以上の疎明事実によると、控訴会社殊に同会社長崎造船所においては、前叙合併の前後を通じ就業規則上いわゆる事故欠勤の場合は、所属上長の許可を要するものとされていたことが明らかである。そして、かような就業規則の建て前及び無断欠勤を懲戒事由とした前叙の趣旨に照らすと、届出はしたが許可が得られず、または虚偽の理由を届け出て一旦許可を得た後それが虚偽と判明して右許可が取り消された場合における事故欠勤は、その評価において無届欠勤と選ぶところがないと解すべきであるから前叙就業規則細部取扱の存否及び同細部取扱8の規定の労使間における効力の有無にかかわりなく無断欠勤の一態様と一応認めるのが相当である。当審証人四方八洲男の供述によつて成立を認める疎甲第一二七号証、当審証人草野光善の供述によつて成立を認める疎甲第二〇二、第二〇三号証、当審証人久保田達朗の供述によつて成立を認める疎甲第二三四号証の一、二の各記載、原審における証人荒川澄、被控訴人山口利之助、原審及び当審証人草野光善、当審証人四方八洲男、同久保田達朗、同高比良宏、同西村卓司の各供述中右一応の認定に反する部分は採用することができない。もつとも、右各疎明及び成立に争いがない疎甲第八七号証の八、一〇、当審証人西村卓司の供述によつて成立を認める疎甲第一二二、第一二三号証、同第二八六ないし第二八八号証、書き込み部分以外は成立に争いがない疎甲第一三四ないし第二〇一号証の各記載部分、当審証人草野光善の供述によつて成立を認める疎甲第二一〇号証、当審証人高比良宏の供述によつて成立を認める疎甲第二七四、第二七五号証を総合すると、控訴会社長崎造船所においては勤怠手続の面で就業規則を厳格に適用していない事例のときに存したことが窺えなくはないけれども、右各疎明をあわせても同造船所全体として、事故欠勤における前叙許可制が空文化し、単に届出だけで足るとする慣行が確立していたことが疎明されたとすることは到底できず、他にこれを一応認めるに足る疎明はない。さすれば、前叙1で疎明されたとおり被控訴人らの欠勤届はいずれも不許可となつたものであつて、右不許可の措置につき控訴会社がその裁量権を著しく逸脱したことは認められないから、昭和四四年一〇月二〇日以降被控訴人らが出勤するまでの間の欠勤は、すべて無断欠勤に当るというべきである。
(3) 被控訴人らは、被控訴人らの欠勤が無断欠勤に当るとしても、就業規則六四条一項一号にいう「連続一四日以上」には及んでいない旨主張するが、被控訴人らが昭和四四年一〇月二〇日から東京都内の反戦集会参加のため欠勤し、同年一〇月二一日逮捕されたため被控訴人山口明彦、同山口利之助は同年一一月一二日起訴猶予となつて釈放され、同月一五日就労する前日までの間、被控訴人亀屋は同年一二月二四日保釈され同月二八日就労可能となつた前日までの間出勤不能となつたことは当事者間に争いがなく、右出勤不能も不可抗力によるものではなく、かえつて各被控訴人は、長崎市を出発する前から東京都内での反戦集会、反戦デモに参加する計画であり、右参加に際し逮捕、勾留されることがあり得ることを知り、かつ、自ら逮捕されるのを予測しつつ東京に行き、反戦集会、反戦デモに参加した結果出勤不能を招いたことは、前叙1で疎明された事実に照らして明らかであるから、前叙出勤不能も自発的欠勤と異るところはないというべきである。さすれば被控訴人らはいずれも休日を除き昭和四四年一〇月二〇日から連続一四日以上欠勤したことが疎明される。控訴会社が被控訴人山口明彦、同山口利之助に対し、前叙各欠勤届を不許可とする旨告知したのが昭和四四年一二月一五日であることは、前叙のとおりであり、欠勤届が提出された場合できる限り速やかに許可、不許可を決めるべきことは、原則的に当然であるが、本件における被控訴人らの欠勤届には、前叙のとおり欠勤期間も連絡先も記載されていなかつたので直接の所属上長である各作業長らは上司に相談するため留保扱いとし、或いは欠勤届の受領自体を拒否し、弁護士によつて提出された欠勤届も各所属工場長が検討中である旨告げて一応受け取り、或いは受領を拒否したのであり、原審証人富永勝彦、当審証人加藤光一の各供述及びこれによつて成立を認める疎乙第九号証の一ないし六、同第一〇号証の一ないし七によると、控訴会社は、被控訴人山口利之助、同山口明彦が釈放されて就労した昭和四四年一〇月一五日から同年一二月九日までの間右被控訴人両名から六回ないし七回欠勤事情を聴取したが、欠勤事由等の事実に関しても欠勤中の行動に関しても答の拒否、黙否を繰り返し使用者として欠勤をやむなしと認むべき返答を得られなかつたので事情聴取を打り切り、被控訴人亀屋は当時なお勾留中であり、かつ反戦集会で共に行動した被控訴人山口利之助、同山口明彦から右のように使用者として欠勤をやむを得ないと認むべき欠勤事由の返答が得られない以上被控訴人亀屋についても同様の結果に終ることが予測できたので、同人からは事情を聴くまでもないとして、被控訴人らの各欠勤届をいずれも不許可と決定したことが疎明される。そして、前叙のように欠勤事由は抽象的に「用事」又は「旅行」と欠勤届に記載されていたのであつて欠勤期間を推知することができず、連絡先の記載もなく緊急の業務上の連絡もできないのであつて、控訴会社が右不許可の決定に日時を要したのはやむをえないというべきであり、以上のような事実関係に照らせばこの決定によつて被控訴人らの事故欠勤は、その初めから無許可欠勤となつた(同年一〇月二〇日から二二日までの欠勤については、許可の取り消しと解すべきである。)と一応認めるほかはなく、遡つて無許可欠勤にならないという被控訴人らの主張を採用することはできない。
(4) してみれば、被控訴人らの本件事故欠勤は、いずれも被控訴人らの責に帰すべき事由によるものであつて、やむをえない事由によるものとは到底解することができず、控訴会社において社会通念上これを甘受すべきいわれはないから、正当な理由がない連続一四日以上に及ぶ無断欠勤として、就業規則(疎乙第一号証の一)六四条一号の懲戒事由に該当するといわなければならない。
(二) 一三号「刑罰決規に定める違法な行為を犯したとき」について
控訴会社長崎造船所就業規則六四条一項一三号の規定は、行為が控訴会社内で行われると否と職務との関係の有無を区別せず、行為者が起訴されたと否とを区別していない。しかし、本号も特に酌量すべき情状があるのでなければ懲戒解雇すべき事由を定めた規定であるから、本来行為者である従業員を企業外に排除しなければならない場合に適用すべきであるとはいえ労働者の職場外の非行であつてもそれが破廉恥的犯罪であつて行為者を企業にとどめておいては企業の運営に悪影響を及ぼし、これにより企業の名誉、信用、利益が害され、または害される虞がある場合には行為者が起訴されたときでなくても懲戒解雇事由に該ることもあろう。本号は行為が破廉恥的犯罪に当ると否を区別していない。もつとも、本号にいう「刑罰法規」は本来国家法であつて企業秩序法でなく、企業が多数の労働者を使用するのに必要な職場秩序を維持するための懲戒解雇の要件規定として構成要件の明確な公法規定を援用したのであるから、兇器準備集合のように必ずしも破廉恥的犯罪といえない行為が起訴の有無にかかわらず職場外の非行であつても、本号の適用を受けるのは、行為者である従業員を企業から排除しなければ企業の運営に悪影響を及ぼしこれにより企業の名誉、信用、利益が害される虞がある場合に限ると解すべきであり、そうであるか否かは当該行為者による行為の任意性、予測可能性の程度、行為の態様等によつて異なると解するのが相当である。これを本件についてみると次のとおりである。
(1) 弁論の全趣旨によつて成立を認める疎乙第一七号証の一乃至一七、同号証の一八の一、二、同号証の一九乃至三一によれば、昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デーにおける一般的状況は安保廃棄、沖縄の即時無条件返還、佐藤首相訪米反対、ベトナム侵略反対等をスローガンに反安保陣営から全国各地で一斉に大規様な集会、デモなどの行われることが以前から予想され、ことに反日共系学生による実力闘争はますます過激の度を加え、同年四月二八日沖縄デー以上の混乱が予想されていて、当日午後東京都内では、社会・共産両党ならびに総評の集会、デモは混乱なく行われたが、右一部過激派学生は、新宿、池袋を中心に高田馬場、飯田橋付近で火炎ビン、角材、鉄パイプ等による機動隊襲撃をくり返し、多数の負傷者、逮捕者を出したことが疎明される。
(2) そこで、右国際反戦デー当日における被控訴人らの行動につき検討する。成立に争いがない疎甲第一一号証、疎乙第八号証、同第一一、第一二号証、同第一三号証の一、同第六七、第六八号証の各一、二、同第六九号証、原本の存在及び成立とも争いがない疎乙第七三号証の一(一部)、二、同第七四ないし第七九号証、原審証人荒川澄、原審及び当審証人草野光善、原審における被控訴人らの各供述の一部を総合すると、被控訴人らはいずれも反戦青年委員会の地区下部組織である九州反戦青年委員会(以下「九州反戦」という。)所属長崎県反戦青年委員会(「長崎反戦」)及び職場組織である控訴会社長崎造船所反戦青年組織(「長船反戦」)に加入している者であるが、昭和四四年一〇月一七日開催の長船反戦の会議において、同月二一日開催予定の国際反戦デーに被控訴人ら三名を含む九名の者が各本人の申出により長船反戦から参加することに決定し、同月一九日上京し、翌二〇日ともに上京していた荒川澄の池袋所在父親宅に右参加者全員が参集したうえ起るべき事態に備えて新宿周辺を見分したこと、同夜各被控訴人を含む参加者は長船反戦と同じく反戦青年委員会の下部組織である横浜地区反戦委員会のメンバーの家に分宿し、そこで横浜地区反戦のメンバーから翌二一日は横浜反戦の指揮下に同反戦と共に行動するよう指示され、当日のコースは高田馬場から新宿に流れこむが、新宿を混乱状態に陥れることができれば勝利である等告げられたこと、翌二一日国際反戦デー当日は、長船反戦の草野光善が出発に当り被控訴人山口利之助、同山口明彦及び九州反戦青年委員会メンバーの一人に対し、自己と右三名が一つのグループとなり横浜反戦に組み込まれて行動する旨及び戦の情勢によつては石など廻りにある物はすべて武器として使用するが、火炎ビンや武器は横浜反戦の方で用意している等の指示を与え、右四名はともにヘルメツト、タオル等を携えて第一次集合場所の中目黒駅に赴き、同所で被控訴人亀屋をはじめ長崎反戦のメンバー約二〇人を含む上はセーター(ジヤンバー)、下はズボン(ジーパン)、ズツク靴などいわゆるデモスタイルの者約五〇人と合流して第二次集合場所の地下鉄茅場町駅に至り、同駅ホームで更に約五〇名のデモスタイルの者と合流して総勢約一〇〇名となり、右デモ隊一行は、その足で目的地の東京都新宿区戸塚町三丁目営団地下鉄東西線高田馬場駅に向つたが、車中一行のうち一名の号令の下に全員一斉にヘルメツトを被り、覆面をし、軍手をはめて機動隊との衝突に備えたこと、高田馬場駅に到着した各被控訴人を含むデモ隊の一行は、同駅ホーム上で四列縦隊を組み集札口を駆け抜け、ガード下方向に行進したが、そのとき隊列先頭に居た一〇数名は角材、鉄パイプ、火炎ビンで武装しており、その先頭集団から待機していた機動隊や附近の交番に向けて一〇本近くの火炎ビンが投げられて発火炎上したので、これに対し機動隊が規制検挙活動を開始し、各被控訴人も控訴人主張の罪名の被疑者として現行犯逮捕され、引き続き勾留されたこと(右逮捕、勾留の点は当事者間に争いがない。)、その結果前叙のとおり被控訴人山口利之助、同山口明彦は、起訴猶予となつて釈放されたが、被控訴人亀屋は、兇器準備集合罪で昭和四四年一一月二二日起訴されたこと、同被控訴人は昭和四九年七月五日東京地方裁判所において懲役一年(三年間執行猶予)の有罪判決を受け、同判決は昭和五〇年六月九日控訴取り下げにより確定したが、同判決で認定された罪となるべき事実は、「被控訴人亀屋は、昭和四四年一〇月二一日午後四時四五分ころ東京都新宿区戸塚町三丁目営団地下鉄東西線高田馬場駅戸塚警察署同駅前派出所側出入口前から同町三丁目国電高田馬場駅前にわたる通称早稲田通り附近において、多数の者が共同して火炎ビンの投てきなどにより警備の警察官らの身体、財産に対し危害を加える目的をもつて、多数の火炎ビン、角材を準備して集合した際、右兇器の準備あるを知つて右集団に加わり、もつて他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的で兇器の準備あるを知つて集合した。」というのであること、以上の事実が疎明される。原審証人荒川澄、原審及び当審証人草野光善、原審における被控訴人らの各供述中右疎明事実に反する部分は採用し難く、他にこれを覆えすに足る疎明はない。
以上の疎明事実のもとにおいて、被控訴人亀屋は前叙有罪判決が確定しているし、被控訴人山口利之助、同山口明彦は起訴には至らなかつたとはいえ、同亀屋に対する有罪判決で認定された前叙罪となるべき事実と同一の兇器準備集合罪を犯したことが疎明され、その故に犯罪の嫌疑がない場合や微罪等についてなされる不起訴処分でなく、犯罪の嫌疑がある場合に情状等を考慮して起訴を見合わせる起訴猶予処分になつたことが一応認められるのであつて、特別の事情の認められない本件においては、被控訴人らの前叙各行為は、就業規則六四条一項一三号の「刑罰法規に定める違法な行為をしたとき」に該当することが推認される。
各被控訴人は、控訴会社が捜査機関から入手した一方的な資料に基づき組合及び被控訴人らの事情説明も十分聞かずに事実関係を認め、就業規則の右条項に該当する旨の判定を下した点において懲戒手続における正義の原則を著しく欠いたものであり、仮りに各被控訴人の行為が何らかの犯罪を構成するとしても、それは控訴会社の事業場外での行為であり、これによつて具体的、現実的に控訴会社に損害を与え、職場規律を乱した事実はないから右行為によつて懲戒解雇することは許されない旨主張する。しかし、控訴会社が被控訴人山口利之助、同山口明彦から六回ないし七回欠勤事情を聴取したが、使用者として欠勤をやむを得ないと認めるだけの返答が得られなかつたこと及び被控訴人亀屋につき前叙の理由で事情を聴かなかつたことは前叙のとおりであり、右事情不聴取は客観的に相当であつたことが疎明される。してみれば、被控訴人山口利之助、同山口明彦については、欠勤期間の終期も欠勤中の連絡先も明らかにせず欠勤したのであるから、もし逮捕、勾留にもかかわらず犯罪行為を犯していないのであれば、右事情聴取の機会に欠勤事由、欠勤期間中における自己の行動についての事実を述べ、欠勤のやむを得ない事情を説明して弁解すべきであるのにあえて欠勤事由等の事実についても欠勤中の行動についても使用者の問に対し答を拒否し黙否して、欠勤のやむを得ない事情の説明をせず、被控訴人亀屋については、逮捕、勾留後起訴されていたから、強制捜査の権限のない控訴会社が捜査機関作成の資料をも認定資料に加えて就業規則適用上同被控訴人が犯罪行為を犯したと認めたのは集団犯罪被告事件裁判に必要な期間中も企業秩序を維持する責任を負つている通常の使用者としてあながち無理であるとはいえず被控訴人らの本件犯罪行為が、就業規則六四条一項一三号にいう「刑罰法規に定める違法な行為」に該当するとした控訴会社の措置に違法、不当の廉があると一応認めることはできない。また、被控訴人らの本件犯罪行為が控訴会社の事業場外の行為であることは被控訴人ら主張のとおりであるが、前叙1のような国際反戦デー当日及びその前夜の一般的状況並びに当日及び前日における各被控訴人の行動にみられるように前日から集合、見分を行い、当日ヘルメツト、覆面、軍手を装着し兇器の準備された集団であることを知りつつ反戦青年委員会の行動に参加した被控訴人らの本件犯罪行為は、社会一般に大きな不安、動揺と迷惑を及ぼす反社会性の強いものというべきであり、しかも、被控訴人らは前叙のとおり逮捕、勾留されることを予測しつつ長崎市出発前予め欠勤の真の理由を秘した欠勤届を作成してこれを同僚の荒川澄に預け、あえて長崎市から東京に赴きかつ右反社会的行為に参加したのであり、各被控訴人は自らが右行為に参加することを予測することができ、かつ長崎出発前現にこれを予測していたのであるから、起訴の有無を問わず、各被控訴人の本件犯罪行為にかかわらず各被控訴人を職場にとどめておくことは使用者である控訴会社に対する社会的評価の低下、毀損を招くおそれがあり、またかような各被控訴人を雇用し続けることは控訴会社の一般従業員にも悪影響を与えるおそれなしとは言い難い。さすれば、各被控訴人の本件犯罪行為が懲戒解雇事由に当るとした控訴会社の措置を各被控訴人の本件行為の懲戒事由該当につき判断を誤つたと即断することはできない。
(三) 前叙三(一)、(二)の疎明事実によると、各被控訴人の無断欠勤(就業規則六四条一項一号)及び犯罪行為(同条一項一三号)は、それだけで懲戒解雇に値すると一応認められ、これに前叙一の各被控訴人の職歴を斟酌しても、本件を同条一項但書によつて情状を考慮すべき事案であると一応認めることは到底できないので、その余の懲戒解雇事由の存否につき判断するまでもなく、控訴会社の各被控訴人に対する本件各懲戒解雇が懲戒事由該当行為がないのになされ無効であるということはできず、各被控訴人の本件懲戒解雇が懲戒事由に該当せず無効であるという主張は採用の限りでない。
2 控訴会社が各被控訴人に対し本件解雇の意思表示をした昭和四四年一二月二八日よりも前から各被控訴人は控訴会社長崎造船所従業員を中心として組織された全日本造船機械労働組合三菱重工支部長崎分会に所属してきた組合員であることは当事者間に争いがない。しかし、各被控訴人に対する本件解雇は各被控訴人が労働組合の組合員であることの故になされた不利益取扱であるといえるのは、本件解雇が各被控訴人の組合員であることを決定的な理由としてなされたときに限ると解すべきところ、その疎明はなく、かえつて、前叙三1(一)、(二)、(三)の疎明事実を前叙争いのない事実に対比すると、各被控訴人に対する本件解雇は各被控訴人の無断欠勤及び犯罪行為を決定的な理由としてなされたことが一応認められるから、各被控訴人に対する本件解雇が組合員であることを決定的理由とする不利益取扱として無効であるという各被控訴人の主張は各被控訴人が組合員であることと解雇との間の因果関係の存在につき疎明がないことに帰着し、採用の限りではない。
四 してみれば、控訴会社と被控訴人らとの間の労働契約は、いずれも昭和四四年一二月二八日告知された懲戒解雇処分により終了したものであり、控訴会社と被控訴人らとの間の労働契約関係が存続していることを前提とする被控訴人らの本件仮処分申請は、つまるところ、被保全権利の存在につき疎明がないことに帰着し、保証をもつて右疎明に代えることも相当でないからその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。
五 よつて、これと結論を異にする原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから民訴法三八六条に従い原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、各被控訴人の申請を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 園部秀信 森永龍彦 辻忠雄)
(別表省略)